東京高等裁判所 昭和37年(う)2484号 判決
被告人 吉田良雄
〔抄 録〕
弁護人の控訴趣意第二点(法令適用の誤りの主張)について。刑法第五四条第一項前段にいわゆる「一個ノ行為ニシテ数個ノ罪名ニ触レ」る場合に「其最モ重キ刑ヲ以テ処断ス」とは、その数個の罪名中、最も重い刑を定めている法条によつて処断するという趣旨(但し、該法条の下限の刑が他の法条の下限の刑より軽い場合には各本条の中の最も重い下限よりも軽く処断することはできない)であるから、その各法条に二個以上の刑種が選択的に規定されている場合に各罪の軽重を比較するについても、その法定刑を標準とし(各法条の所定刑中、刑法第一〇条により重しとすべき刑を比照し)てこれを定めるのが当然であつて、各罪につき先づ適用すべき刑種を選択した上、その刑を比照して重きに従うべきものではないことは既に判例とするところである。(大審院大正三年一一月一〇日判決第六〇巻七五九三頁、同大正五年四月一七日判決大審院刑事判例集第六四巻八五八二頁最高裁判所昭和二八年四月一四日判決最高裁判所刑事判例集第七巻第四号、八五頁、同昭和三二年七月一八日判決、第一一巻第七号一八六一頁の趣旨参照)ところが、原審は被告人の原判示所為中、業務上過失致死、各業務上過失傷害、及び業務上過失建造物損壊の点が、一個の行為で数個の罪名に触れるものとして法令を適用するに当り、前二者(四個の罪)につきそれぞれ刑法第二一一条前段を適用してその各所定刑中禁錮刑を選択し、後者につき道路交通法第一一六条を適用してその所定刑中禁錮刑を選択した上、刑法第五四条第一項前段第一〇条に従い前二者の罪のうち瀬戸好子に対する罪を最も重いものとして同人に対する致死罪の刑に従い禁錮刑をもつて処断したものであることは判文上明らかであるから原判決はこの点において法令の適用を誤つたものと言わなければならないことは所論のとおりである。然しながら本件は、原判示業務上過失致死及び各業務上過失傷害の点につきいずれも刑法第二一一条前段、業務上過失建造物損壊の点につき道録交通法第一一六条をそれぞれ適用し、刑法第五四条第一項前段第一〇条により、結局、犯情により瀬戸好子に対する業務上過失致死罪を最も重いものとし、その該当法条(刑法第二一一条前段)の所定刑中禁錮刑を選択して処断するのを相当とする事案であると解されるところ、原判決もまた、瀬戸好子に対する業務上過失致死罪の該当法条所定の禁錮刑を宣告刑量定の基準としたものである点において全くこれと軌を一にし、右法令適用の誤りは毫も判決に影響を及ぼすところはないものと認められる。よつてこれを理由として原判決の破棄を求める所論は、失当であつて、論旨は理由がない。
(小林健 遠藤 吉川)